大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所宮崎支部 昭和34年(ナ)2号 判決

原告 平山源宝

被告 鹿児島県選挙管理委員会

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「昭和三四年五月六日訴外重村一郎から提起された同年四月二三日執行の鹿児島県大島郡区議会議員選挙における選挙の効力および平山源宝にかかる当選の効力に関する異議申立について、同年七月九日、被告がなした『昭和三四年四月二三日執行の鹿児島県大島郡区議会議員選挙における大島郡伊仙村開票区の選挙を無効とする。』との決定はこれを取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因としてつぎのとおり述べた。

一、原告は昭和三四年四月二三日執行の鹿児島県大島郡区議会議員選挙に立候補し、かつ当選した議員である。

二、訴外重村一郎は昭和三四年五月六日被告に対し、右選挙の効力および原告の当選の効力に関する異議申立をなしたところ、被告は同年七月九日、右選挙における大島郡伊仙村開票区の選挙を無効とする旨の決定をなし、同月一五日その要旨の告示をなした。

三、しかして、右決定の理由は別紙記載のとおりであるが、右選挙においては、該決定の理由に指摘するがごとき選挙の管理執行に関する規定に違反した事実は全くなく、該決定は誤つた認定事実にもとづいてなされた違法のものであるから、その取消を求める。なお大島郡区の開票区の数は一三、定員は五名であり、原告は最下位当選人で、その総得票数は七、七四六票、前記異議申立人重村一郎は最高位落選人で、その総得票数は七、三一五票である。また、伊仙村における投票所の数と場所は、第一投票所伊仙村役場、第二投票所面縄小学校、第三投票所喜念小学校、第四投票所鹿浦小学校、第五投票所馬根小学校、第六投票所阿検小学校、第七投票所犬田布小学校、第八投票所糸木名小学校である。被告主張の各候補者の得票数ならびに本件決定の直前に行われた選挙が昭和三四年六月二日の参議院議員選挙であつて、その選挙のときにおける伊仙村の有権者の数が被告主張のとおりであることはいずれも認める。

被告訴訟代理人は、主文と同旨の判決を求め、答弁としてつぎのとおり述べた。

一、請求原因一、二の事実は認める。同三の事実については、「当該選挙に管理執行に関する規定違反の事実はなく該決定は事実の誤認にもとづくものである。」旨の主張部分を除き認める。

二、右大島郡伊仙村開票区の選挙は左のとおり選挙の規定に違反した事実がある。

1、もず、伊仙村第二投票区の投票所である面縄投票所における投票が選挙の規定に違反した。すなわち、

イ  訴外寿山克彦は右投票所における選挙事務従事者であり、その担任事務は代理投票の補助と場内整理であつたが、投票当日は一回も代理投票の補助をしたことはなく、もつぱら場内整理の事務に従事していたものであるが、右選挙における入場券を他より蒐集し、数回にわたり選挙人名簿との対照を了し、投票用紙の交付を受け、一旦投票所外に出て投票所に隣接する教室内で記載し、再び投票所内に入り、二〇枚位づつに分け、投票立会人および投票管理者の席に背を向けて、投票箱に連続投函したり、投票所閉鎖直後取りかたづけのため一時監視の目のゆるんだすきを利用して投函し、また入場券と選挙人名簿の対照を終りながら、いまだ投票用紙の交付を受けなかつた分およびその他について、投票用紙に過数があるもの全部を抜き取つて、投票所閉鎖前に投函し、

ロ  右投票所の受付係東田悦子は、右寿山克彦が相当数の入場券を呈示し対照を要求したため、不正と知りつつ対照を行い、

投票用紙交付係であつた、仲恵子および米田のり子は、寿山克彦が前後三回にわたり、遂十枚づつ対照済入場券をもつて、投票用紙と引換えるよう強要したので、不正行為が行われることを恐れながらも交付し、

同じく投票用紙交付係であつた春利雄も数回にわたり寿山克彦が投票用紙を抜き取るのを目撃しながら、これを制止しなかつた。

ハ  訴外沢田良信は伊仙村選挙管理委員会から投票所の事務を委嘱または命ぜられたものでもないのに、右投票所の庶務係としての事務に従事していた上木豊島から投票所の事務を頼まれて同投票所の受付係を担当し、選挙人名簿の対照を行つていたものであるが、前記寿山克彦から依頼された他人の入場券一一枚について自ら選挙人名簿との対照を行い、投票用紙の交付を受け、内一部を寿山克彦に渡し、一部は自ら投票所外の便所の中で記載し、当日午後五時頃から投票所閉鎖までの間に二回にわたり投票箱に投函し、

ニ  選挙人である盛行為は右投票所において、自ら二回にわたり不正投票をなし、かつ、前記寿山克彦に知人から蒐集した入場券九枚を渡し、

ホ  また、選挙人寿山文忠も自己の投票以外に二回にわたつて二票の不正投票を行つた。

されば、右投票所においてなされた投票は、公職選挙法第三六条にいう一人一票の原則に違反し、同法第四四条の投票所における本人投票の規定を無視し、あわせて同法第四五条(投票用紙の交付)、第四六条(投票の記載および投函)の規定に違反しているものである。又正規の投票所事務従事者でない者が投票事務に従事したことは、同法第五八条の規定に違反し、かつ、事務従事者が忠実にその事務を執行せず、不正投票を行い、またはこれを故意に看過したことは同法第二七三条に違反し、このような投票所全体の不正行為を制止し得なかつたことは、投票管理者および投票立会人がその職責を忠実に遂行しなかつたためであり、同法第三七条・第三八条により投票管理者および投票立会人を置いた法の根本理念に反するものである。さらに、同法施行令第三五条に規定する選挙人の確認行為が適正になされていないこと、および同施行令第三七条にいう投票用紙の投入手続についても違法行為がなされていることは明らかである。ゆえに、右投票所における投票は選挙の規定に違反する投票と断ぜざるを得ない。

2、その他の投票所における不正投票として、転出者の入場券にもとづいて投票している事実が第一投票所である伊仙村役場に二件、死亡者の入場券にもとづいて投票している事実が、右第一投票所に二件、第七投票所である犬田布小学校に三件あるが、これらは投票当日、各投票所における選挙人の確認行為が正当に行われていなかつたことに基因するものであり、選挙の規定に違反するものといわなければならない。

3、つぎに、伊仙村開票区の選挙はその開票にあたつても、選挙の規定に違反した事実がある。すなわち、

イ  候補者である原告の得票として伊仙村開票区の開票録に表示してある数は六、三四一票であるが、そのうち原告の投票として算入すべからざるものがつぎのとおりである。

(一) 改ざんされたとみるべきもの二一二票

内(1) 他候補の有効投票とみるべきものを改ざんして原告の有効投票としたと認めるべきもの、一一〇票

内 笠井純一の分  一票

岡元経良の分  八票

重村一郎の分 二六票

房弘久の分   八票

肥後吉次の分 六〇票

上野親二の分  一票

中村安太郎の分 六票

(2) 本来無効投票として取扱うべき票に、平山、もしくは平山源宝などと加筆し、原告の有効投票に算入したと認めるべきもの、一〇二票

(二) 白紙投票すなわち、無効投票として処理すべきものを、原告の有効投票とすべく加筆し、同人の有効投票に算入したと認めるべきもの、三〇票

(三) その他無効投票とすべきものが、原告の有効投票中に混入され同人の有効投票として算入されているもの、二一票

(四) 他の候補者の有効投票が原告の有効投票中に混入されていたもの、一票

(五) その他不正投票に基因する同一筆跡と思料されるもの六六五票のうち、鑑定の結果明らかに同一筆跡と断定し得るものが三〇種類二七六票存在する。これらのうち伊仙村各投票所で行われた代理投票が九三票あるので、三〇組について各組につき一票は選挙人が自から投票したものとしても自から投票しなかつたとみるべき最低数は、二七六票から代理投票九三票と三〇組のうち各組一票すなわち三〇票を控除した数一五三票で、少くともこの一五三票は不正投票であり原告の有効投票から差引かねばならない。

(六) なお、原告に対する投票数を点検した結果計算違い一票あることが判明した。

したがつて、右(一)ないし(五)の不正票数合計四一七票および(六)の計算違い一票合計四一八票は原告の投票として不当に算入されていることになる。

ロ  そしてこのような結果の生じたわけは、

1 前記寿山克彦が開票立会人である木場基秋の了解を得て約六〇票の改ざんをなしたこと、

2 その他の事務従事者も改ざんを行つたこと、

3 開票管理者および開票立会人が一部の投票につき点検を行わずして各候補者の得票数を決定したこと、

に基因するものである。

されば、伊仙村開票区の選挙は開票管理者および開票立会人を置いた公職選挙法第六一条および同法第六二条の根本理念に反するのみならず、同法第六六条第二項(開票の場合の投票の点検)・第六七条(開票の場合の投票の効力の決定)の規定に違反し、法の要求する点検および決定を行なわなかつたといわざるを得ず、選挙の規定に違反していることは明らかである。

三、そして、右の規定違反は選挙の結果に異動を及ぼす虞があることは明らかである。すなわち、

最下位当選人である原告の選挙区全域の全得票数は七、七四七票であるところ、前記のごとく不当に算入されている投票数が少くとも四一八票あるから、これを控除すると、その得票数は七、三二八票となる。これに対し、最高位落選人重村一郎の選挙区全域の全得票数は七、三一五票であるが、その中には中村と記載された投票が一票混入しているのでこれを控除し、同人の有効投票中前記の原告の票に改ざんされたとみるべき二六票を加えると、その得票数は合計七、三四〇票となるので、いかに原告に有利に判断しても選挙の結果に異動を及ぼす可能性のあることは明らかである。なお、大島郡区における他の候補者とその得票数は別紙決定理由記載のとおりである。

よつて、被告が公職選挙法第二〇五条にもとづき、伊仙村開票区の選挙を無効とする決定をなしたのはもとより相当である。なお、本決定の直前に行われた選挙は昭和三四年六月二日の参議院議員選挙であり、その選挙のときにおける伊仙村の有権者数は八、七九二名である。

(立証省略)

理由

原告が昭和三四年四月二三日執行された鹿児島県大島郡区議会議員選挙に際し立候補し、かつ当選した議員であること、右選挙に立候補して落選した重村一郎が同年五月六日、右選挙の効力に関し、被告委員会に対し異議の申立をなし、同委員会は同年七月九日、右選挙における大島郡伊仙村開票区の選挙を無効とする旨の決定をなし、同月一五日その要旨の告示をなしたこと、右決定の理由が原告主張の通りであることは当事者間に争いがない。

原告は右決定の認定した事実を争いその取消を求めるのに対し、被告は右決定において認定したとおり選挙の管理執行に関する各般の規定違反の事実があり、選挙の結果に異動を及ぼす虞れがあるから本件の右開票区における選挙は無効であり、同旨の決定は相当であると主張するので、右決定の理由となつた被告主張のような選挙の管理執行に関する規定違反があつたかどうかについて判断する。

第一、伊仙村開票区の各投票所における選挙事務従事者の投票に関する不正行為ならびにその他の不正投票について。

(一)  第二投票所(面縄小学校)における選挙事務従事者の不正行為について。

成立に争いのない乙第三ないし第七号証(第五ないし第七号証、第五五・五七号証、第六八ないし第七一号証に夫々枝番号のあることは証拠摘示のとおりである)に、証人仲恵子・春利雄・沢田良信・盛行為・寿山文忠の証言の一部を総合するとつぎのような事実が認められる。

同投票所における選挙事務従事者寿山克彦(代理投票事務補助および場内整理係)・沢田良信(名簿対照係)は選挙人盛行為・寿山文忠などが本件県議会議員選挙の詐欺投票を行うことを知つていてこれを制止せず、かえつて沢田良信は正規のものとして対照し、これらの不正投票行為を幇助したばかりでなく、寿山克彦・沢田良信は寿山文忠・盛行為らと夫々共謀し、或いは単独で、他から蒐集した入場券をもつて本件選挙の不正投票をしたこと、その投票の数は必ずしも確定できないが少なくとも寿山克彦において六一票、沢田良信において一三票あり、両名において他の不正投票を許容したとみるべきものも相当の数に上る。そして、寿山克彦・沢田良信が右の不正投票を行うにあたつては、寿山は同人の職場(伊仙村役場)の下僚であつて右投票所において受付係をしていた東田悦子、県知事投票用紙交付係をしていた仲恵子や米田徳子らに受付・交付を強要し、ついで、県議会議員の投票用紙の交付係であつて同じく職場の下僚である春利雄にその投票用紙の交付を強要してその交付を受け、投票所に隣接する学校教室において記載して投票箱に投函したものであり、寿山克彦らの呈示する他人の入場券につき受付・対照をしたり多数の投票用紙を交付した右各選挙事務従事者らもその不正行為を熟知していながら、仲恵子・東田悦子・米田徳子は逡巡しつゝも、寿山の「責任を持つから」との言葉に従つて不正の事務を行い、春利雄は当初寿山より投票用紙の交付を強要された際は驚愕し、自らその不正行為にまきこまれることをおそれ、寿山に対し「便所に行くから、その間事務を交替してくれ」といつて職場を離れ、その間に寿山に投票用紙を領得させたのであるが、その後は寿山・沢田の要求に応じて、その席において交付しているのである。

そして、沢田良信・盛行為・寿山文忠はこの不正投票によつて、昭和三四年九月三〇日鹿児島地方裁判所名瀬支部において有罪の判決を受け、寿山克彦は現在同裁判所において公判係属中である。

(二)  第一投票所(伊仙村役場)における選挙事務従事者らの不正行為。

(イ)  成立に争いのない乙第七六ないし第九一号証(うち、第七九・八六・八九・九〇号証には夫々枝番号のあることは証拠摘示のとおりである)によると、つぎのような事実が認められる。

第一投票所の代理投票係義山忠良は園田清吉と共謀して園田が予ねて入手した他の選挙人の入場券九枚を義山において受付係井上欣助の受付事務代行中受理し、県知事・県議会議員の投票用紙交付係が夫々席を外した間隙に乗じ夫々の投票用紙各九枚を取り出し、これに記載して投函した。そして右両名はこの不正行為のためいずれも昭和三四年九月三〇日鹿児島地方裁判所名瀬支部において有罪の判決を受けるにいたつた。

(ロ)  そのほか、成立に争いのない乙第九二ないし第一二三号証(第一〇五・一二〇・一二一・一二三号証に夫々枝番号のあることは証拠摘示のとおりである)によると、右投票所においては、選挙人平山重義・幸野繁久・牧浦造松らによつてその数は確定できないが、五〇票を超える多数の詐欺投票が行われたこと、右牧浦は同村助役であること、さらに、不正投票について選挙事務従事者(受付係・投票用紙交付係)はこれを知悉していて故意に看過したこと、平山・幸野はいずれも昭和三四年九月三〇日右裁判所において有罪の判決を受け、牧浦は現在公判係属中であることが認められる。

(三)  伊仙村開票区の各投票所における不正投票の数。

右(一)、(二)において認定したとおり、第一・第二投票所において多数の不正投票が行われたのであるが、これらの事実と、乙第一号証の一ないし一六、同号証の二六ないし三九(これらが投票の写真であることについては争いがない)、成立に争いのない同第一二四・一二五号証に証人漆間久治の証言ならびに検証の結果を総合すると、伊仙村開票区において開票されたものの中には明らかに同一筆跡と断定されるものが三〇種類二七六票存在することが認められるのでこの事実と伊仙村各投票所で行われた代理投票九三票の存在の事実(この事実は弁論の全趣旨によつて認めうる)とを対比すると、三〇組について各組に一票は選挙人が正当に投票したものとして不正に投票したと認めるべきものが最低数一五三票存在することになる。

第二、伊仙村開票所における選挙事務従事者の不正ならびに開票録表示数の不真正について。

(一)  選挙事務従事者の不正行為について。

検証の結果と乙第一号証の一七ないし二五(これらが投票の写真であることについては当事者間に争いがない)と証人漆間久治の証言によると、開票管理者において原告の有効票と判断された投票中には明らかに改ざんされたと認めるべき投票が存在することが確認できる。その内容は、

(1)  他候補の有効投票とみるべきものを改ざんして原告の有効票としたと認めるべきもの(改ざんの態様は「重村一郎」と記載してある文字の上に重復して「平山」と記載し、そのほか「シゲムラ」と記載してある文字の上に「ヒラヤマ」と、「肥後」とある文字の上に「平山」と「房弘久」とある文字の上に「平山」と「岡元経良」とある文字の上に「平山」と、「中村」とある文字の上に「平山」と「かさいしゆん」とある文字の上に「ヒラヤマ」と、「うえの」とある文字の上に「平山」と夫々重復して記載してある)一一二票。すなわち、

肥後吉次の分 六〇票

重村一郎の分 二八票

岡本経良の分  八票

房弘久の分   八票

中村安太郎の分 六票

笠井純一の分  一票

上野親二の分  一票

(2)  本来無効投票として取り扱うべき票(寺園・仮屋など県知事候補の名を記載してあるもの、又は○のみを記載して投票したもの、何を記載してあるか不明のもの)に「平山」もしくは「平山源宝」と加筆し原告の有効票に算入してあるもの一一三票。

(3)  白紙投票すなわち無効投票に加筆して原告の有効投票に算入したと認められるもの三〇票。

ところで、成立に争いのない乙第六号証の六(寿山克彦の司法警察員に対する供述調書)によると、右開票所において事務従事者寿山克彦(開票所の場内整理係兼進行係)は一二〇枚ないし一三〇枚の投票の改ざんを行つたことを警察員に自供しているのでこれと前記改ざん票の存在とを総合すると、同人が行つた改ざん票の数の点はともかくとして、右開票所において、選挙事務従事者が改ざんを行つたこと自体は明らかである。

右の認定に反する証人寿山克彦の証言の一部は前記証拠に照し措信できない。

(二)  開票録表示の原告の得票数の不真正。

検証の結果によると、原告の有効投票として算定された投票束中には(イ)白紙のままの票が八票、(ロ)「中村」と記載した中村候補の有効票一票が各混入していることが認められる。

しかして、右(一)、(二)のごとき結果が生じたことは開票管理者の投票の点検、投票の効力決定につき故意による看過、ないしは重大な過失があつたといわざるを得ない。

第三、前記第一、第二の選挙事務従事者の不正行為と伊仙村開票区の選挙の効力との関係について。

このようにして選挙事務従事者による各投票所ならびに開票所における不正行為および不正行為の故意の看過がいわゆる選挙の管理執行の規定に違反することは勿論であり、しかも、右認定のごとくこれらの不正行為は、計画的かつ大がかりな悪質のものであつて、かくれた他の不正行為の介在の不存在を保証し得ないで、一般選挙人に対し甚だしい疑惑をいだかせるものといわなければならないし、選挙の自由公正および選挙制度の信用保持の点からも、かかる選挙の結果を維持することは到底許されるべきではない。したがつて、そのことだけで当然選挙の結果に異動およぼす虞れがあり、選挙の無効をきたすものと解すべきである(もつとも、沢田良信については被告はこれを正規の事務従事者でないとし、同人の選挙事務従事を公職選挙法第五八条違反と主張するのであるが、一方被告は第二投票所における選挙事務従事者の不正行為、不正行為の故意の看過を主張し、沢田良信の不正行為をも主張しているのであるから、同人の不正行為を選挙事務従事者の不正行為と認定し、選挙規定違反との関係を判断することはもとより許されるところであり、また、第一投票所における不正行為については前認定のように具体的には主張していないけれども概括的に不正行為の存在を主張しているので、これについて判断をなしうることも当然である)。

のみならず、右違法は最下位当選人と最高位落選人との票差の関係上からも選挙の結果に異動をおよぼす虞れがある。すなわち、最下位当選人たる原告の選挙区全域の得票総数は七、七四六票であり(票数については当事者間に争いがない)、前記第二に認定したとおり、不当に算入されている投票数が少なくとも四一七票(第一、(三)のように不正投票一五三票、第二、(一)のように偽造票二五五票、第二、(二)の不正算入九票)あるから、これを控除すると、その得票数は七、三二九票となる。これに対し最高位落選人重村一郎の選挙区全域の得票総数は七、三一五票であり(この票数については当事者間に争いがない)、これから被告主張の「中村」と記載された一票を控除すると、七、三一四票となり、これに前記第二、(一)の同候補の有効票に対する改ざん票二六票を加えると、七、三四〇票となる。そうするとこの票数の関係からみても選挙の結果に異動をおよぼす虞れがあると断定せざるを得ない。

したがつて、本件選挙は大島郡伊仙村開票区に関しては無効というべきである。

よつてすすんで職権により、公職選挙法第二〇五条第二項所定の当選に異動を生ずる虞れの有無について判断するとつぎのとおりとなる(各候補者の得票数については当事者間に争いがない)。

伊仙村開票区の得票数を控除した得票数についての順位(仮称)

氏名

選挙区全域の得票数

伊仙村開票区の得票数

伊仙村開票区外の得票数

得票数の差

笠井純一について

当選 1

笠井純一

一〇、一五五

一三五

一〇、〇二〇

2

肥後吉次

九、七二三

三五一

九、三七二

六四八

3

岡本経良

九、二二六

九、二二六

七九四

4

迫地栄良

九、二五五

五〇

九、二〇五

八一五

5

重村一郎

七、三一五

三五八

六、九五七

三、〇六三

落選 6

房弘久

六、六九九

六、六九八

三、三二二

7

上野親二

五、二六九

二八四

四、九八五

8

中村安太郎

四、六八六

三〇〇

四、三八六

9

平山源宝

七、七四六

六、三四一

一、四〇五

合計

七〇、〇七四

七、八二〇

六二、二五四

八、六四二

まず、笠井純一についてみると、同条第三項により計算した得票数は八、六四二票となり、これを同条第四項の規定による本件決定の直前に行われた選挙、すなわち昭和三四年六月二日執行の参議院議員選挙のときにおける伊仙村の選挙当日の有権者数八、七七九名(以上の選挙と有権者数の点は当事者間に争いがない)と比較すると、前者が少ないので同候補者の当選に異動を生ずる虞がないといえないし、以下各候補者についても同様の結果となる。

そうすると、以上と結論において同旨の前記決定は相当であり、その取消を求める原告の本訴請求は失当であるから、これを棄却し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 桑原国朝 後藤寛治 蕪山厳)

(別紙)

決定の理由

よつて、本委員会は、この申立を受理し申立の趣旨及びその理由を各項について検討するに、本申立は、投票所における投票の管理行為を主とするかしにより相当数の不正行為が行われ、その結果選挙の結果に異動を及ぼすおそれあるものとして選挙の無効を申し立て、かつ開票の際、平山候補の得票とするため、他の候補者に対して投ぜられた有効投票及びその他の投票を改ざんしたという理由により、平山候補即ち本件選挙における最下位当選人たる平山源宝の当選を無効とすることを申し立てているものと判断する。

よつて、まず選挙の効力について審査したところ次のとおりである。

第一 申立理由第一点にいう伊仙村開票区において全村的不正投票が行われたとすることに関する具体的申立事項について調査の結果、

1 入場券の発行手続については、伊仙村選挙管理委員会(以下「村委員会」という。)は本年四月五日ごろから同月一五日ごろまでの間にかけて、本件選挙に用いるべき入場券を作成したのであるが、この場合、入場券は、昭和三三年一二月二〇日確定の基本選挙人名簿に記載されている者全員について一応作成しているのである。即ち、入場券を作成するときまでには、基本選挙人名簿の死亡若しくは転出等にかかる修正又は表示がなされていなかつたので、現実に作成された入場券の中には、恐らく死亡又は転出等の理由により入場券を作成すべき必要のない者の分まで含まれていたであろうということは容易に推定できるし又実際このようなものが入つていた。しかしながら、この間において村委員会は、本件選挙において調製すべき補充選挙人名簿の登載者の調査及び既存の選挙人名簿即ち基本選挙人名簿登載者中で選挙権を有しない死亡者、転出者等の実態を調査するため伊仙村内各区長に対し調査方依頼し、その結果を四月一〇日頃までに提出させ、これにより、基本選挙人名簿に所要の修正又は表示を行い、かつ、これらの処理をなされた者についてすでに作成されている入場券は抜き取り村委員会に保管している。しかる後四月二〇日区長会を開催し、それぞれの所管区域にかかる入場券を交付かつ所要の注意事項を与え各選挙人に配付すべく依頼しているのである。

このように各地域の選挙人の動態を把握するのに最も適当な地域的代表者即ち区長等を通じて調査し及び入場券の配付を行わせる取扱いは、従前とられていた方法でもあるし、又仮に村委員会が個々の選挙人に直接送達しなくともこれのみをもつて取扱いに違法ありとすべき事由はない。又配付が甚しく遅延したという申立は、選挙の期日前三日前に各区長に送達してあること及び区長が通常の配付方法さえ講じたならば選挙の期日の前日までに各選挙人に到達したであろうという客観的判断から、入場券が前日に至つても配付されなかつたということは考えられない。又、調査の範囲ではかかる事実も認められない。

なお、申立人は、入場券が強制的に取り上げられたともいつているが、その事実は認められないし、むしろこれは、後述寿山克彦の証言にもあるように、一部有権者がみずから入場券を他の者に手交し投票を依頼した事例等と誤認しているものと判断される。しかしながら、かかる判断を一歩譲つて、仮に入場券の未配付若しくは強制的な取り上げがあつたとしても、入場券の発行に関する公職選挙法施行令(以下「令」という。)第三一条の規定は、いわゆる訓示規定と解すべきであることは明らかであり、これが規定を設けられた趣旨は、選挙人が投票を行うに当つての方法、場所等を周知せしめ、あわせて選挙人の確認行為をより容易ならしめるための行政措置と解するを相当とするので、入場券を有する者即ち投票できる者、入場券を有しない者即ち投票できない者と解すべきでないことは論をまたない。

即ち、選挙権の有無は、投票当日をもつて判断し、これは投票管理者が選挙人名簿又は抄本と対照し確認すべきものであることは法第四三条及び令第三五条の規定をもつてしても明らかである。

2 不正投票が行われたとする具体的申立事項の第二項である一部投票所における事実関係につき、本委員会が調査した結果、その一として、伊仙村第二投票区の投票所である面縄投票所の事務従事者寿山克彦及び同沢田良信、選挙人盛行為及び同寿山文忠が入場券の蒐集、入場券と選挙人名簿との一括対照、投票用紙の一括受領及び一括投函又は二重投票等を行つた事実があり、これは右四名の証言及び所轄警察署においてなした自白からも明らかであり、又かかる行為がなされたとする事実を裏付ける当該投票所の他の事務従事者の証言等からも立証しうるものである。

まず、寿山克彦についていうに、寿山克彦は、面縄投票所における事務従事者でありこの者の投票所における担任事務は、代理投票の補助者としての事務及び場内整理係としての事務であつたが、代理投票の補助者としては当日一回も従事していないことは関係投票録からも明瞭であり、もつぱら場内整理係としての職務に従事していたものである。この場内整理係の職務は、投票所に関する事務の円滑化を計り、かつ選挙人に対し投票に関する所要の指示を行うといういわば選挙法に定める投票手続に詳しくかつ投票所事務に相当の経験と知識を有することを必要とする職務であることは明らかで、前記寿山克彦はこれらの条件を備えた有能な投票所事務従事者であつたということは諸般の調査から容易に推定されるところである。しかるに、寿山克彦は、かかる職務に任ぜられたことを利用し、知事分の投票用紙七一枚県議会議員分投票用紙六一枚を不正に投票したと自白し、かつ証言しているが、これらの行為が現実に行われたとする事実関係を詳記すれば次のとおりである。

すなわち、寿山克彦は本件選挙における入場券を蒐集し、数回にわたり選挙人名簿との対照を了し、かつ、投票用紙の交付を受け、一旦投票所外に出て投票所に隣接する教室で記載し、再び投票所内には入り投票箱に投函したものである。これにつき右寿山克彦の証言によると、「投票当日農作業が繁忙を極めていたので、一家のうちから一人が家族の他の者の入場券をあわせ持参し投票所に行き投票しようとしたが、警察官が来所していたので自らの分のみを投票し、他の者の入場券を私に渡し、後刻本人を来所せしめるので保管すべく依頼した。そこで、私はこの依頼された入場券を対照係に提示して、一応の対照のみを終つて選挙人を待つていたが、選挙人がこないので、時間切れのため無効となることを恐れて午後三時から四時ごろまでにかけて投票用紙の交付を受け数回に分け投票管理者及び投票立会人の監視をさけて投票した。投票の方法は、二〇枚位ずつに分け、投票立会人及び投票管理者の席に背を向けて、投票箱に連続投函した。投函不能の分は、投票所閉鎖直後取りかたづけのため一時監視の目のゆるんだすきを利用し投函した。」というものである。

又、入場券と選挙人名簿との対照を終りながら、まだ投票用紙の交付を受けなかつた分及びその他については、「投票用紙の残数と、選挙人名簿上に投票済として表示してある者の数とを対比して、投票用紙に過数があるもの全部を抜き取つて、投票箱閉鎖前に投函した。」といつている。

なお、これらの不正行為を事実行つたとする寿山克彦の自白を立証するものとして、面縄投票所の受付係東田悦子は、寿山克彦が相当数の入場券を提示し対照を要求したため不正としりつつ対照を行つたといい、又投票用紙交付係であつた仲けい子、及び米田のり子は、前記寿山克彦が前後三回位に亘り数十枚づつ対照済入場券をもつて投票用紙と引き換えるべく強要したこと、かつかかる不正行為が行われることを恐れながらも交付したこと、並びに春利雄も数回に亘り右寿山克彦が投票用紙を抜き取つたとの証言がある。

さて右寿山克彦が場内整理係の職を担任するほど、投票所の事務に経験を有し、選挙法規に関する知識を有しているにかかわらず、一部有権者がなさんとする不正投票を阻止しないのみならず自ら入場券を一時保管しそれを時間切れの恐れありとして自ら投票所閉鎖時投票用紙の交付をうけ投函したこと、及び他の事務従事者に威圧的言動をもつて不正行為をなさしめたことは争うべからざる事実である。これは当初から不正投票を行わんとする意志を有して事務に従事したと断ぜざるを得ない。又不正行為であることを熟知しながら選挙人名簿の対照、投票用紙の交付をあえて行つた投票所事務従事者、及びかかる多量の不正投票及びこれに付随して生じた多くの不正行為を知り得なかつた投票管理者及び投票立会人は、いずれも投票所において選挙の事務を管理し公正を確保しなければならない当然の義務を遂行しなかつたものであるといわざるを得ない。

なお、寿山克彦は、不正投票の数を一応示しているが、各関係人の証言はいずれもあいまいであり、その実務を確定することは到底困難である。

次に沢田良信は、当日前記寿山克彦と同一の投票所即ち面縄投票所において受付係を担当し、選挙人名簿の対照を行つていたものであるが、これは村委員会から投票所の事務を委嘱され又は命ぜられた者ではない。すなわち、当該投票所の事務従事者であり庶務係であつた上木豊島が投票所事務に従事せしめていたものであるが、これにつき投票管理者であつた窪田実喜祐は、沢田良信を投票所事務に従事せしめることについて上木豊島が了解を求めたことについては承知しないといい、従つて右沢田良信が正当な投票所事務従事者であるか否かについても疑いは抱かなかつたといつている。これに対し、上木豊島は、「窪田実喜祐はこのようないきさつについては了知していたはずだ。」ともいい、いずれの証言が事実であるか判断できないがいずれにしても村委員会が沢田良信を投票所事務に従事せしめるべく措置していないのであり、これは村委員会の証言からも明らかである。

沢田良信は、その不正投票の事実関係について前記寿山克彦から依頼された入場券一一枚をもつて自ら選挙人名簿との対照を行い投票用紙の交付を受け、内一部を寿山克彦に渡し、一部は自ら投票所外の便所の中で記載し当日午後五時から投票箱閉鎖前に二回にわたり投函したと証言している。これは関係警察署における自白と合致するものである。又本人は、かかる不正行為が現実に行われたということについて、投票管理者又は投票立会人は、知つていたと思われるといつている。又投票用紙の受領については、一括これを交付係から受領したとのべている。

これらの事実関係から判断するに沢田良信は、正規の事務従事者でないにかかわらず一定の不正行為を目的に投票所に在り、選挙人の確認行為を終日行い前記寿山克彦らと共謀して不正行為を現実に行つたものであり、このことは勿論いちじるしく選挙の公正を害するものであつた。更に又このことは、法第五八条が投票所に出入りしうる者を厳格に規正しもつて選挙の公正を確保しようとした法意にも反するものである。

その他盛行為は、面縄投票所において自ら二回にわたり不正投票をしたこと及び前記寿山克彦に知人から貰つたという入場券九枚を渡したと証言しているし、又寿山文忠も自らの投票以外に二票の不正投票を二回にわたつて行つたと証言しているが、かかることからして、投票所事務従事者を含めた不正投票が実に多量に行われたことが推断される。

なお、申立人は、伊仙村第一投票区である伊仙村役場投票所においての不正投票について申し立てているが、調査の結果、その具体的事実を掴むことはできなかつた。しかし、現在所轄警察署において当該投票所における不正投票の事実があつたとして容疑者を逮捕していること等からして相当数の不正行為があつたであろうと推定することができる。ただし、第七投票区である犬田布校投票所についての不正投票の事実は、調査の結果明らかでない。

以上本委員会の調査した事実及び各関係人の証言を基礎として判断するに、現実に不正投票が相当多量になされたということは明白である。ただかかる不正行為が行われたことについては、関係投票管理者及び投票立会人は知らず、かえつてかかる不正行為を防止するため、投票開始時刻前及び投票所開所中にも数回にわたつて所要の指示を行い投票事務の公正の確保に努めたといい、又村委員会としても投票事務について、投票の前日所要の指示を行つたというが、調査の結果、その事実はある。それにもかかわらず一部の事務従事者が計画的に不正行為を行い、その結果刑事上の問題にまで発展していることもこれ又事実である。元来法第二〇五条にいわゆる「選挙の規定に違反する」とは、公職選挙法に定めている事実に違反する事実の存在をいつているのであり、その事実がいかにして存在したかによつて区別せられるべきものではない。従つて右に述べたように、相当数の不正投票が、たとえ投票管理者等が知り得ないような状態の下であろうとも当該投票所の一部事務従事者の手でなされ、かつ、かかる不正行為が現実になされることを熟知しながらこれを行わしめた他の事務従事者が存在したことは勿論選挙の規定に違反するものと言わねばならないし、又投票管理者等が一応妥当な管理行為をなしたとしても、なお、その違法性を否定することはできないのである。

このように見るとき、面縄投票所における投票の管理行為は、全く選挙の規定に違反するものであり、かかる状態のもとでなされた投票は、選挙人の自由に表明した意思の結果ということはできないし、それが仮に選挙人の依頼による不正投票としても、いやしくも投票事務に従事する者はかかる不正行為を防止する責務を有するもので、それは単に道義的責務に止まらず公職選挙法上の責務である。よつて、若し事務従事者が些かでも不公正な態度があるとすれば、選挙人はかかる事務従事者にけん制され若しくはそれに同調する立場を取らざるを得なくなることは、容易に考えられるところである。

従つて、面縄投票所においてなされた投票は、法第三六条にいう一人一票の原則に違反し、法第四四条の投票所における本人投票の規定を無視し、あわせて法第四五条(投票用紙の交付)法第四六条(投票の記載及び投函)の規定に違反しているものである。又正規の投票所事務従事者でない者が投票事務に従事したことは、法第五八条の規定に違反し、かつ、事務従事者である者が不正投票を行い、又はこれを故意に放置していた事実は、法第二七三条違反であり、このような投票所全体の不正行為について関知しないとする投票管理者及び投票立会人は、その職に伴う責任を遂行しなかつたとみなされてもやむを得ないものであり、法第三七条及び第三八条の規定の根本理念に反するものと断ぜざるを得ない。更に令第三五条に規定する選挙人の確認行為が適正になされていないこと及び令第三七条にいう投票用紙の投入手続についても違法行為がなされていることは明らかである。

かくて面縄投票所における投票は、選挙の規定に違反する投票と判断するを正当とする。

3 不正投票が行われたとする実証の一例として申し立てている「選挙人が投票の権利を失つた」ということについては調査することはできなかつた。しかし前記事実から容易にかかる事態が生じたであろうということは推定に難くない。又死亡者等が投票をなしている事実は、所轄警察署の調査により判明したところでも、犬田布地区において三件、伊仙地区において二件、又転出者とみられる者が投票をなした事実は伊仙地区において二件あり、これらは、いずれも投票当日、投票所における選挙人の確認行為が正当になされておれば、防止し得たであろうということと、伊仙地区又は犬田布地区においても不正投票がなされたであろうと推定しうるものである。

4 申立人は、一部投票者が投票用紙の記載内容を投票立会人に示して投函したと申し立てているが、かかる具体的事実は、調査の結果、判明しなかつた。

第二 申立理由第二点について、本委員会が調査した結果は、次のとおりである。

1 本件選挙に際し、「昭和三三年執行の衆議院議員選挙時における投票用紙改ざんの方法をとつた」という開票所事務従事者がいるということについては、調査の結果判明しないし、又衆議院議員選挙時に関する投票用紙の改ざんの事実又は方法を調査しなければならない直接の理由も存在しないので判断は省略する。

2 馬根投票所からの投票箱の送致について長時間を要し開票予定時刻を二時間程度くりのべたのは事実である。

すなわち、当該投票所は開票所から約六キロメートル乃至八キロメートルの距離にあるが投票当日最も距離の近い道を選び、投票所を午後六時三〇分から午後七時の間に出発したこと、及び開票所に午後九時過到着したことは、関係人の証言等が合致するところで争いはない。しかしながら六キロメートルの道程に二時間以上を要したことは、不当に長いようであるが、調査の結果、最も近い道を選んだことが前夜来の雨で最も交通困難な道を偶然にも選んだという結果となり、このことについても特に争いのないところである。又開票管理者が投票箱を受領する際も封印、鍵の保管の状況も良好で異状なく受領している事実からして、申立人のいうような不正行為は認められない。

3 次に馬根投票所からの投票箱の送致を遅らせ一部候補者に有利に開票を行おうと意図したと申立人はいうが、これも、調査の結果かかる事実は存在しないし、むしろ投票箱の未到着を危惧し馬根投票所に職員を出発せしめる等の手段を講じているものであり、まして開票を翌日に行うというが如き言辞を用い混乱せしめたようなことは全く認められないので、これも申立人の憶測の域を出ないものであると判断する。

4 次に開票所において投票用紙の改ざんがなされたとする申立についてみるに、調査の結果、次の如き事実が判明した。

すなわち、明らかに平山源宝の得票として改ざんされ、及び本来無効とみるべき投票で平山源宝の有効投票に算入されている結果、平山源宝の得票数が違法に増加している。

すなわち、平山源宝の得票として伊仙村開票区の開票録に表示してある数六、三四一票中、平山源宝の投票として算入すべからざるものは次のとおりである。

(一) 改ざんされたとみるべきもの、すなわち鉛筆の色、筆跡、投票用紙の氏名記載箇所、消ゴムにて消した跡、重複記載その他の状況から見て明らかに開票の際、平山源宝へと書き改められ、又は書加えられたと判断されるもの(なお一部は寿山の証言がある。)二一二票

内(1)他の候補者の有効投票とみるべきものを改ざんして平山源宝の有効投票としたと判断されるもの一一〇票

笠井純一の分  一票

岡本経良の分  八票

重村一郎の分 二六票

房弘久の分   八票

肥後吉次の分 六〇票

上野親二の分  一票

中村安太郎の分 六票

(2)本来無効投票として取り扱うべき票に平山、若しくは平山源宝等と加筆し、同人の有効投票に算入したと判断されるもの一〇二票

(二) 白紙投票すなわち無効投票として処理すべきものを、平山源宝の有効投票とすべく加筆し同人の有効投票に算入したと判断されるもの三〇票

(三) 無効投票とすべき投票が、平山源宝の有前投票束に加えられ同人の有効票として算入されているもの二一票

(四) 他の候補者の有効投票が平山源宝の有効投票束に入つていたもの一票

合計 二六四票

があつた。

5 投票についての判断は、なおこの外に平山源宝の有効投票として処理されている票中不正投票についてもなされなければならない。

すなわち不正投票の結果の同一筆跡と思われるもので、本委員会が抽出したもの六六五票中、専門鑑定の結果明らかに同一筆跡と断定しうるものが三十種類二七六票存在する。これらのうち伊仙村各投票所で行われた代理投票九三票三十組についての各組に一票は選挙人が自ら投票したものと考慮すべきもので、従つて選挙人が自ら記載しなかつたとみるべき投票の最低数は、二七六票から代理投票九三票と三十組のうちの各一票すなわち三〇票を控除した数一五三票が少くとも不正投票であり、平山源宝の有効投票から差し引かれねばならない。

6 これらの不正投票数すなわち二六四票及び一五三票を合算すると四一七票となり、これに実際の平山源宝に対する投票数を点検したことによつて生じた計算違い一票を加えると、少くとも四一八票が不当に算入されていると判断される。従つてこれを平山源宝に対する大島郡区の得票数七、七四六票から控除するとその得票数は七、三二八票となる。

次に次点者たる重村一郎について調査するに、伊仙村開票区における得票数は三五八票であるが、このうち中村と記載された投票一票が混入されているのでそれを控除し、かつ前記平山源宝に書きかえられたとみる二六票を加えると三八三票となり、これを他の開票区分と合算すると七、三四〇票となる。

すなわち、いかに平山源宝に対して有利に判断しても当選に影響を及ぼす虞れは明らかである。

しかしながら、ここでまず判断断すべきことは、個々の投票の効力の問題でなく開票事務に関連しての選挙の効力に関する考察であるから、管理行為の観点から伊仙村開票所における開票の状況に言及する。

まず、開票所は、伊仙村役場会議室に設けられ、中央に開票台、開票台をはさみ参観人席と開票管理者、開票立会人及び庶務係、臨監者の席が設けられ参観人席からみて右側に計算係が位置していたものである。

開票は、午後九時三〇分から始められ、各投票箱の数の点検を行いしかる後知事の分から投票の点検を行い、知事分が終了してから県議分に着手している。まず各開票係が各候補者の得票をふり分けながら、無効投票と思われるもの及び判定を要する票はすべて開票台上に置かれた箱に投入し、各開票係がふり分けた各候補者毎の得票は二、三名の職員が取りまとめ、計算係に送致、計算係はそれを五〇票束にゴムで止め、五人乃至六人の計算係が枚数及び票の混入を点検し、最後の計算係が各候補者毎の得票を得票計算簿に記入、しかる後三人の開票立会人及び開票管理者が点検を了し、これら点検を了した投票は開票管理者の机の上に積まれていたのであるが、このような事務処理の状況は、関係人の証言が殆んど一致しており事実に相違ないものと思われる。

このような状態のもとで、しかも参観人及び警察官臨監者の監視のもとで現実に改ざんの事実が生じていることと又開票管理者が開票前に行つた指示、筆記具に対する処置、開票所の出入に関する規制を行いながらかかる不正行為を防ぎ得なかつたことについて多くの疑問の存するところである。このうち、投票用紙の改ざんの事実については前記寿山克彦が開票立会人である木場基秋の了解を得て約六〇票の改ざんを計算係と机をはさんで坐り机の下で記載したというのであるがこれを立証する第三者の証言は得られない。ただ一部事務従事者が改ざんを行つたに相違ないことは、投票の点検からも明らかであるし又事実存在する改ざんの投票数及び書体等の判断からして一人寿山克彦のみで行つたものとも思われない。しかも、ここで留意すべきことは調査の範囲内では改ざんの事実をみとめる者は右寿山克彦一名のみであり開票事務従事者及び開票立会人・開票管理者とも、かかる投票が存在していなかつたとさえのべている。

しかしながら現実に存在し、しかも平山源宝の有効投票とされている事実からすると開票管理者及び開票立会人は、かかる投票があつたということも知り得ずして、すなわち、一部の投票の点検を行わずして各候補者の得票数を決定したということになり法第六六条第二項及び法第六七条の規定は無視されたということになる。すなわち、このことは、選挙の管理規定に違反するものであり、当選の効力の素因としてのみ判断されるような問題と解すべきではない。すなわち、投票の点検を行つたが、その決定に誤りがあるとする問題ではなく本件選挙における開票については、法の要求する点検及び決定をも行わなかつたと言うものであり前述の如く選挙の規定に違反した行為であると判断せざるを得ない。

第三、以上、各申立事項各点について判断をしたとおり、投票所において不正投票を招来せしめたことについては、明らかに選挙の規定に違反するものであるし、また開票所における投票の改ざん等を生ぜしめた原因については選挙の規定に違反するものと断ぜざるを得ないのである。しかるに、法第二〇五条の規定による選挙の無効を決定するに当つては、選挙の規定に違反することのほかに更にそれが選挙の結果に異動を及ぼす虞の有無について判断しなければならない。まず投票所における関係をみるに前記面縄投票所のみについてみても明らかに多量の不正投票があり、しかもその不正投票の数は前記諸事項からして、一部事務従事者が申し立てている不正投票数の如きものではないと判断せられる。又それは単に一部投票の問題ではなく違法な管理のもとにおかれた面縄投票所における全投票数一、九〇〇票についての効力の問題として判断されなければならない。しかるときは、最下位当選人平山源宝の得票数七、七四六票と最高位落選人重村一郎の得票数七、三一五票との票差は四三一票に過ぎないので一面縄投票所における投票の結果のみから判断しても選挙の結果に異動を及ぼすものと考えなくてはならない。

この際当該投票所に関する投票を全部無効とし、その数を開票区における全投票者数から控除し、残余の投票につき潜在無効の規定を適用し当選人の更正決定を行うことも考えられるが、法第二〇九条の二の規定がここに適用せられ得ないことは、法の規定からみて論をまたないところであり、而して面縄投票所における各候補者別の得票数の配分がなし得ない以上、右によつて開票区たる伊仙村全体の選挙を無効とせざるを得ない。しかも、かかる不正投票は単に面縄投票所のみに限定されるべきものでなく、他の投票所においてもかかる行為が存在するものとして司直の手によつて究明されつつあるところであるので、かくては広く伊仙村全域の投票行為についてさえその合法性が危ぶまれるのである。次に開票所における不正行為の結果としての改ざんの事実及びその投票数及び不正投票の数については前述したとおり如何に最下位当選人に有利に判断しても選挙の結果に異動を及ぼすことは明らかであるし、むしろ白票を含む多くの無効投票に書き加え、又は書き替えを行つた結果実際に平山候補に有効とせられた不正な投票数はこれらの数をなお上廻るものと判断せざるを得ないので選挙の結果に異動を及ぼすことは実に明白である。

さて、伊仙村における本件選挙の実態を按ずるに、諸般の状態からして全村を挙げて特定候補を当選せしめようとしたことが察知されるのであるがかかる目的の達成のため計画的な一種の選挙干渉的行為となり一部選挙の事務従事者を含めた者が本来厳正自由であるべき選挙の精神を無視し、目的のために手段を選ばなかつたことは選挙の理念を破壊したものとして弾劾さるべきでなおこの上に選挙人の自由に表明せられたであろうと推定すべき投票を書き替えるに至つては、選挙人の自由意思は完全に失われたものといわざるを得ない。又、前述の如く村委員会、投票管理者及び開票管理者が一応とられたであろう事務指導及び監督の事実は認めるが、それのみをもつて良とすべき問題ではなく、むしろかかる不正行為を防止するためにより必要な措置がとり得られなかつたことは大いなる失墜といわざるを得ない。

元来、公職選挙法の理念は、憲法の精神に則り、選挙が選挙人の自由に表明する意思によつて公明かつ適正に行われることを確保し、もつて民主政治の健全な発達を期するものである。

かかる理念を無視し、不法に選挙を執行された伊仙村開票区の選挙が無効であると判断すべきは、何人といえども承認するところである。

なお、申立人の申立理由たる平山源宝の当選の効力については、例え、選挙の管理規定の違反が存在しないとしても、前述の如く不当に算入された投票が存在するものであり判断を進めて更正決定すべきものであるが、法第二〇五条により選挙の効力について無効と決定したので当選の効力についての判断は必要でない。

しかしながら選挙の無効を決定するに当つて、大島郡選挙区における他の開票区の選挙は有効であるので、進んで法第二〇五条第二項の規定に基き、当選に異動を生ずる虞の有無につき判断するに次表のとおりとなる。

伊仙村開票区の得票数を控除した得票数についての順位(仮称)

氏名

選挙区全域の得票数

伊仙村開票区の得票数

伊仙村開票区外の得票数

得票数の差

笠井純一について

当選 1

笠井純一

一〇、一五五

一三五

一〇、〇二〇

〃 2

肥後吉次

九、七二三

三五一

九、三七二

六四八

〃 3

岡本経良

九、二二六

九、二二六

七九四

〃 4

迫地栄良

九、二五五

五〇

九、二〇五

八一五

〃 5

重村一郎

七、三一五

三五八

六、九五七

三、〇六三

落選 6

房弘久

六、六九九

六、六九八

三、三二二

〃 7

上野親二

五、二六九

二八四

四、九八五

〃 8

中村安太郎

四、六八六

三〇〇

四、三八六

〃 9

平山源宝

七、七四六

六、三四一

一、四〇五

合計

七〇、〇七四

七、八二〇

六二、二五四

八、六四二

右表に基き、まず笠井純一について見るに、同条第三項により計算した得票数は八、六四二票となり、これと法第二〇五条第四項の規定によるこの決定の直前に行われた選挙即ち六月二日執行の参議院議員選挙のときにおける伊仙村の選挙当日有権者八、七九七名と比較するとき伊仙村における当日有権者の数が多いので、最高位当選人たる右笠井純一について、当選に異動を生ずる虞あるものとして判断せられる。

以下各候補者についても当然に同様に判断するものである。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例